夜香花
「ったく、折角機会を与えてやったのに、退屈させんなよ」

 乱暴に、掴んでいた手を離す。
 深成はしばらく赤くなった手首を撫でていたが、不意に、キッと真砂を睨んだ。

「何が機会だ! 危うく死ぬところだったじゃないか!」

「知ったことか。随分汚れたから、洗っただけだ。ま、別に死んでも構わんかったけどな」

「洗っただけだとぅっ? 湯に入れてくれりゃいいじゃないか! いきなりあんな川に投げ込むなんて、どういう神経してるんだ!」

「馬鹿か。何故俺が、捕らえた刺客をわざわざ手厚く湯に入れてやらにゃならんのだ。飯を食わせてやっただけでも、有り難いと思え」

「そんなこと、その前に殺そうとしたんだから、当然の報いだ!」

「さらにその前には、お前は俺を殺そうとしただろうが」

「それはその後、お前に打たれて大怪我負ったんだから、文句を言われる筋合いはない!」

 内容はともかく、まるで子供の喧嘩である。
 馬鹿らしくなり、真砂は一つ息をついて空を仰いだ。

 まだ空には、星が瞬いている。
 深成はまた手首をさすりながら、ちらりと真砂を見た。

「お前は何で、わらわを殺さない」

 悔しいが、殺そうと思えば、真砂は簡単に深成など殺せるだろう。
 技術も力も、到底及ばない。
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