ひまわりに

episode13『いま』


「ライ!何十分またせとるか
分かっとるん!?」

あー。怒ってる。奈々。

「今日は、急いできた...方......
なんだよ?」

「お前、どうせ寝坊だろ?」

ず...図星。

「陽輝、なんでわかんの!?」

「いや、オレ以外の皆もお見通しだ
ボケ。」

陽輝が頭の上を指してる......?

「ネグセ。」

「っっっ!!」恥......。

昨日、不安になって寝れなかった。
というか寝たのは
「今日」になってから。

「いや、ちょっと。アノ...さ?」

「50分近く待たせといて、
ちょっともアノもあらへんわ....。」

奈々さぁん......。目が怖いです。

「まぁまぁ、奈々。
いつものことだろ?」

救世主、かける!!参上...!

「翔がいっつも、そぅやって
まいっかい、毎回、
甘やかすからやん。」

「別に、
甘やかしてるってわけじゃねーよ。」

そーだよ!!
頑張ってください、翔さま。

「いーや、甘やかしてると
オレは思うね。」

「せやろ?毎回まいかい、
翔が『まぁまぁ....』
なんて言うてるからや!」

「たしかに、いつもっちゃ
いつもだけどよ。」

認めないでよ!!

「いっつもなんだね......。」

涼ま、で......。

「せやねん!涼からも言うてや。」

「いや、僕はそんな......、
気にしてな...」

涼がフォローを入れてくれている
トコロを見て
不満そうに、奈々が口を開いた。

「涼もこんな、夜更かしして寝坊して。
顔も洗わずネグセつけて休日に出歩き
挙げ句の果てに遅刻、言い訳。
こんな女。
嫌になるやろぉ?」

「えぇ!?」

「ごめんなさぁいー!!」

・・・

今日はみんなで、
例のタイムカプセルを
掘りおこしに行く。

だから、いつもの公園に集まったんだ。

みんなワクワクしてるのか、
奈々は、最近はあまり聞かなかった
毒舌っぷりに磨きがかかってるし。
(怒ってるだけかも。)
陽輝は、朝苦手なくせに口数多い。
翔は、声がいつもより大っきい。
涼は、、、

「雷樹ちゃん。楽しみだね?」

「...うん!」

相変わらず、ぎこちないけど。
表情柔らかくって、
いっぱい話してくれる。

「僕は、何を埋めたんだろうなー。」

「何だろうね、
私も全っ然思い出せないよ。」

「なんか、たのしい。」

涼が、ニコっと笑った。だから

「そう?良かった!」

私も笑顔で返した。
すると、安心したように
涼は話しを続けた。

「僕の......記憶が、ないっていう感覚。
分かる?」

「あー、わかるかも。」

記憶を探っても、
あの時に自分がしたこと。
感じたこと。
思ったことが、全く思い出せない。
頭の奥の方に、あるような
......ないような...。
不確かな記憶しかない。
それも、記憶と呼べるほど
ハッキリしない。

「みんなの名前も、自分のことも、
全部そんな感じだよ。教えられても、
『あぁ、そうだったかもしれない。』
って。思い出せるわけじゃない。」

「りょう.....。」

「騙されても、
気付かないかもしれない。」

「......。」

「まあ、みんなの言うことは
信じちゃうけど。」

屈託のない笑顔。
どうしてこんなに、素直なんだろう。
こんなに、信じちゃう。
なんて言われたら、
こっちだってトコトン信じるしかない。

「この世界で一番可哀想なのは、
信じられる人がいないことだね。」

昔に、
誰かが言った言葉だったかもしれない。

「良いこというね、雷樹...ちゃん。」

「言いにくいでしょ、
雷樹って呼んでよ!」

「あぁ、雷樹。」

一瞬、あの頃の涼と重なった。
ただ、名前を呼ばれた。
それだけなのに。

「......わたしって単純。」

「どうしたの?」

「なんでもないよ♪」

ふふっ......、本当に単純だよ。
目が合うだけで、
こんなにワクワクするなんて。
嬉しいなんて。

あの頃と同じ。

「今日はいーっぱい、楽しもうね!」

「うん?......なんかご機嫌だね。」

「まーねー。」

暑くて、ジメジメして、涼を奪った夏。
好きになれるのは祭りと花火とかき氷。
そんな夏が、
好きになれそうな気がした。

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