ペテン死のオーケストラ

愛おしい娘

仕事の辛さをマルメロに愚痴る日々。

マートルにとっては平和な日々でした。

辛い事を辛いと言える事に幸せを感じていたのです。
マルメロは健気にマートルを心配します。

「お母さん、無理しないで」

「お母さん、元気を出して」

「お母さん、泣かないで」

マルメロの慰めがマートルの疲れきった心を癒してくれます。

「生きてるのが辛い」

マートルは口癖のように言います。
その度に、マルメロは心配そうな顔で励ましてきてくれます。

「お母さん、生きて」

マートルは、この言葉を聞くと自分が必要とされてると感じるのです。
マルメロとなら、ずっと二人でやっていけると思っていました。



しかし、マルメロの歳が上がると変化があったのです。

「そんなに愚痴ばかり言わないで」

「言っても変わらないよ」

「愚痴じゃなくて文句だよ」

マートルにとって、厳しい言葉でした。

どんどんマルメロが離れていくのを感じたからです。
悲しくて、更にマルメロに愚痴を言います。

「生きてるのが辛い」

マルメロはこの言葉にだけは反応を示すため、必ず最後に言うようにします。

マルメロに「生きて」と言ってもらいたくて。

しかし、マルメロは何も言わなくなります。
部屋に篭るようになり、お洒落を楽しむようになっていくのです。
マートルは、何故か娘の成長が嫌で堪りません。


「マルメロが私を捨てる」


マートルは不安で仕方なかったのです。


「マルメロに嫌われている」


嫌な思いがマートルの心を苦しめます。


「一人は嫌!!」


マートルはマルメロに愚痴という形で甘えます。
しかし、期待通りの反応がもらえず不安感が増すばかり。

寂しい毎日を過ごして、マートルの愛情は歪んだものになっていきます。

マルメロを罵ることで、自分の存在を訴えるようになります。

「マルメロが謝ったら許してあげるわ」

マートルは、必死でマルメロからの愛情を欲していました。
< 153 / 205 >

この作品をシェア

pagetop