ペテン死のオーケストラ
カツン、カツン、と誰か女性の足音が聞こえます。

マルメロは背筋を伸ばしました。

誰が来たか分かったからです。

「最終対決と言ったところね」

マルメロは思いました。


現れたのはサイネリア。


しばらくの間、マルメロとサイネリアは睨み合います。

最初に口を開いたのは、サイネリアです。

「ご機嫌はいかがかしら?」

厭味ったらしくマルメロに聞きます。

マルメロは、微笑み答えます。

「最高よ。静かで落ち着くわ。でも、少し蒸し暑いわね」

サイネリアは真顔で、マルメロを見つめ話し始めました。

「余裕を演じるのは止めなさい。最高な訳ないでしょ?」

「最高よ。私は元々、賑やかなのは苦手なのよ。だから、静かな場所が好きなの」

「嘘。あんなに、舞踏会が好きなくせに静かな場所が好きだなんて信じられないわ」

「はぁ。サイネリア、そんな事より何か用があったから来たんでしょう?用が無ければ、こんな所には来ないでしょうから」

「ええ。まぁね。少し、気になる事があったから…」

「何?早く言ってちょうだい」

「…、最近。最近、変わったわね。何かあったの?」

マルメロは拍子抜けします。
どうでも良い事を聞いてくるサイネリアに呆れたのです。

「お母様が死んだ。それだけよ」

「それは知ってる。でも、それ以外に何かあったでしょ?前のマルメロと違う」

「ねぇ?それを聞いて何になるの?明日には死刑になるかもしれない女よ?質問相手が違うんじゃない?」

サイネリアは居心地の悪そうな顔です。
マルメロには、意味が分かりません。
サイネリアは話します。

「ほら、あの笑い方やってみせてよ」

「はぁ?笑い方?」

「そう、片方の口角だけ上げて笑うやつ」

「…。ねぇ、サイネリア何がしたいの?」

「だって、最近やらないじゃない。私が注意したから?」

「知らないわよ。意識してないわ」

「ふ〜ん…」

「…」


また、沈黙です。
マルメロは鬱陶しくなってきました。
サイネリアが何をしにきたのか分からないからです。
どうでも良い事をペラペラと喋るサイネリア。

マルメロは苛立ちを抑え、聞きました。

「サイネリア、何をしにここへ来たの?」

「え?」

「用が無いのなら、帰ってちょうだい」

「…、用なら有るわよ」

「なら、早く言って」

サイネリアは黙りました。
マルメロは黙って待ちます。

長い沈黙の後、サイネリアはハッキリ言いました。


「私に謝って」


マルメロは、その言葉に怒りが爆発しそうになります。
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