ペテン死のオーケストラ

悲願

翌日のお昼過ぎに、マルメロに最悪の知らせが届きます。

『愛おしいマルメロへ

母上の件は事実だ。

更に体力が落ちている。

一刻をあらそうのだ。

今すぐに戻れ。

ハンノキ』


マルメロは手紙を握りしめ、フラフラとその場に座り込んでしまいました。

手紙を抱きしめ動けません。

「早く、早く帰らないと!」

マルメロは、力を入れ立ち上がりました。

そして、すぐに王の部屋へと走ったのです。

城の人々は、そんなマルメロを見て笑います。

「みっともない女だ」

「今の顔、信じられないわ」

「やだ、やだ。マルメロは疫病神よ」

そんな悪口なんてマルメロの耳には入りません。

マルメロは王の部屋をノックもせずに開けました。

中には王とサイネリアがいました。

サイネリアは驚き叫びます。

「マルメロ!失礼よ!出ていって!」

マルメロは、そんなサイネリアを無視して王に叫びます。

「王様!助けて下さい!」

あまりの悲愴なマルメロの声に王もサイネリアも黙りました。

マルメロは「はぁ、はぁ」と息を上げ突然その場に座り込んでしまいます。

サイネリアが「どうしたの!?」と、マルメロに駆け寄ります。

マルメロは小刻みに震えています。
目は王を見据え、王からの言葉を待ちます。

すると、サイネリアが王に言いました。

「マルメロの話しを聞いてあげて下さい」

サイネリアの声に、王は我に返ります。
久々に、サイネリアが話しかけてきてくれたからです。王は冷静にマルメロに聞きます。

「マルメロよ、どうした?そんなに慌てて」

マルメロはすぐに答えます。

「私を家に帰らせて下さい!」

この発言に王よりもサイネリアが反応します。

「何言ってるの!?無理に決まってるでしょ!」

しかし、マルメロはサイネリアの声には耳を貸さず王だけに訴えるのです。

「母が、母が!お願いです!すぐに戻ってきます!一度、家に帰らせて下さい!城の内情なんか決して言いません。私は母に会わなければいけません!」

サイネリアは怪訝な顔をして王に言います。

「王様、駄目です。マルメロを帰らせるなんて!他の者に示しがつきません」

王は悩んでいる様子。

マルメロは悲願します。

「ほんの数日です!母に会いたい!王よ、どうかご慈悲を!!」

サイネリアは苛立ちながらマルメロに怒鳴りました。

「見苦しい!私に説教をするくせに何なの!?今の貴女は醜い女よ!王様、どう思われますか?」

王は困り果てました。

「やはり、帰らす訳にはいかない。サイネリアの時もそうだったんだ。マルメロよ、耐えてくれ」

マルメロは「嫌です!」と何度も訴えます。
しかし、王は冷たく言いました。

「見苦しいぞ。サイネリアを見習え。もう良いだろう、出ていけ!」

サイネリアはマルメロを冷たい目で見ています。

マルメロは震える体を必死に抑え立ち上がりました。

「また、来ます」

マルメロは、それだけ言うと部屋から出ていきました。
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