Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
一昨日のことを思い出す。

ロイはあの娘を無事に安全なところまで送り届けてくれただろうか。

一緒にいた男と女は、あの娘の友人に違いない。

自分のとった行動が、頭領に気づかれている様子もなかった。

あの娘はすぐに自分のことなど忘れるだろう。

ただ、何となく胸騒ぎがする。
気のせいだろうか。

だがジャンは、その感じた胸騒ぎを軽視した。

彼の意識はもっぱらあの娘、ミシェルに向いていたのである。


ミシェルと死んだ恋人とをダブらせる。

『カレン』…。
とジャンは心の中で恋人の名前を呟いた。

眼を閉じ、立膝をしたところに顔を埋める。


本当によく似ていた。

彼女の顔を見たとき、一瞬カレンが生き返ったのではないかと疑ってしまうほど驚愕した。

よくよく見れば、眼の色や口元など相違する点があったことは確かだ。

だが、これほどまでそっくりな人間がいるだろうかと信じられなかった。


彼女をこんなところに居させる訳にはいかない。

そう思ったときには、ジャンは行動に出ていた。

ミシェルを連れてこっそりアジトを抜けた。

彼女は戸惑った顔をしていたが、逃がしてもらえると察すると、黙って付いてきた。

途中、ミシェルには道が険しく、ジャンにおぶってもらう始末になるのだが。


明らかに頭領や盗賊団に対する背信行為…。

このままバレなければ、何も心配することはない。

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