キズだらけのぼくらは


彼は私が考えこんでいる間にももう歩きだしていた。

けれど、もう引きとめる理由もない。

私とは対極のテーブルの端へ行くと、決してこちらを見ずにカバンを手にとった。

「もう、俺は帰っていいだろ」

カバンをひょいと肩に背負い、問いかけではない言葉で私たちに断りをいれる。

でも、新太はここへきてやっと目を開けた。

横目で彼を見ている。

「本郷は、誰だと思う? 今回の真犯人」

新太の声が静かな図書室に響き渡っていく。

大きな声ではないけれど、その落ち着いた声は、淀みなく辺りに広がっていくようだった。

私は思わず息を殺す。図書室に緊張感が走っていく。

「そんなの俺が知るかよ。意外と近くにいるヤツだったりしてな」

そう言った彼の背中は笑っていた。

背負われたカバンは彼の背中で何度か小さく跳ねた。


< 245 / 490 >

この作品をシェア

pagetop