キズだらけのぼくらは


私は少し首を傾げて、電話に出る彼を眺めていた。

「もしもし、母さん、どうかした?」

想像よりもお母さんには優しい声を出す声。

でも、彼の表情はさっきまでと一変してくもっていく。

「え……? なんで……そんな……」

深刻な声。動揺に揺れる瞳。スマホを持つ手が震えている。

私には受話器の向こうのお母さんの声はなにも聞こえなかった。

途切れ途切れの彼の声が、一台、また一台と通り過ぎる車の騒音に掻き消されそうになる。

私は彼に向って手を伸ばそうとしたけれど、手が止まった。

「いや……、俺には無理だよ……。無理だ、俺に言わないでくれっ」

勢いで電話を切り、息を切らしている彼。

ダラリと下ろされた手はもっと酷く震え、スマホがきしむほど握りしめている。

「どうしたの……? もしかして、海夏ちゃん……?」

私は恐る恐る呟くように問いかけた。

私も怖くて声が震えている。

だって、彼が、あの辛いときの顔に戻っているんだ……。


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