優しい爪先立ちのしかた

今の自分の方が好き。

式鯉はそう言って、少し照れくさくなる。

「今、あなた達に出会えて良かった」

この街が好きだ、とカナンは思う。

確かに、この街にはないものが沢山あるだろう。

「先生、良かったですね」

「なにが?」

「自分が好きになれて」

スルーされたものだと思っていたその台詞を掘り返されて、式鯉は肩を竦める。

ったく、最近の女子高生は。

「そうじゃなきゃ、今までの自分に悪いでしょう?」


それでも、きっと感じる。

この街に居る度、いつも感じる。

他の街にはないものが、この街には沢山あることに。


栄生もきっとそれに気付いている。





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