優しい爪先立ちのしかた
あ、と気付いた。もしかして式鯉が進路室じゃなくて、普通の教室を話す場所に選んだのは、こうやって、話しやすくする為かもしれない。
「私は高校生の時の自分、嫌いなの」
遠い向こうを見ている式鯉。
それに、式鯉も話しやすいのかもしれない。
式鯉はこの街の生まれではない。
わざわざ都会からこんな田舎に引っ越して、高校教師になった。
「誰も信じませんって顔して、意地っ張りで誰にも頼れなくて、友達と挨拶も碌に出来ない子だったからね」
カナンは女子高生に戻ったような顔の式鯉に、微笑を見せる。
「もしも私が居たら友達になったのに。きっと栄生ちゃんもなりましたよー?」
「それはそれで嬉しいけどね。どうかな、私は今の自分の方が好きだから」