優しい爪先立ちのしかた

ああ、でも梢は本気で怒ると口調が変わるのか。

返事をしない滝埜がそっぽを向いた。星屋の反応も気になって、栄生も梢も黙っている。

長い髪が、肩から落ちた。

「お邪魔しました、では後ほど」

ずるり、と滝埜を後ろから羽交い締めする格好で縁側を引き摺り始める星屋。恐ろしい。

「ちょ、自分で! 自分で歩けるよ!」

「離したらまたすぐに行ってしまいそうですから」

思ったよりもぞんざいな滝埜の扱いに、栄生クスクスと笑う。それから洗面所へ行った。

梢は二人の後ろ姿を昨日同様に見送って、きっと昨日の自分と同じ気持ちなのでは、と予想だけした。

きっと、人生なんてそんなものだ。

「今日お兄さんが来る日?」

「そうですね」

「まあでも、宴会出たら明日は仕事あるって言って帰っちゃいそうだけど」



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