優しい爪先立ちのしかた
そこまで聞いて、栄生は気付く。
そういえば、梢の方が最後にこの場所に居たのだった。
静かというには、蝉の鳴き声が煩い。
もう、殆ど他人の家だ。
「やっぱり不思議。梢がなんで私の家に来たのか」
「底辺、ですか」
「そうそう、覚えた?」
笑いながら振り向く栄生。それは、あれだけ言われれば。
車の助手席の扉を開ける。乗り込んだのを見て、梢は運転席に着いた。
合図も特になく、動き始める窓の外に視線を投げる。
今になって悲しい気持ちが戻ってくるのは、何故なのか疑問に思いながら。