優しい爪先立ちのしかた
「許すことなんてないけどね。もしも梢が彼女が私を忘れたってことを言いたいなら、それは本当に良いの」
「何が、」
「人は許さないと前に進めないし、許して貰えないと前を向けない」
雨で濡れたフロントガラスに雫が伝う。どこかに忘れた涙のようだった。
栄生の達観した考えには、いつも感心を覚えていた梢だが、今回は何とも言えない気持ちになった。
「帰ろっか」
「はい。一緒に来てくださって、ありがとうございます」
「いいえー」
私が勝手について来ちゃっただけだもの、と笑う栄生は、払われていく雫を見て目を伏せた。
「これ、修理屋のおじさんから。梢さんの時計?」
カナンが差し出したのは透明な袋に入っている腕時計。