優しい爪先立ちのしかた

この前同様、たいへん銀髪は艷やかであったが、梢が見たいものは違った。

「姫は海にでも遊びに行ったんじゃないか?」

和菓子を受け取って、聖はさっさと中へ入って行く。

上着を持って、車に戻る。ここに来る前に海を見た。あそこまで戻ろう。

梢が嶺から聞いたのは、嶺が尾形から聞いたことだった。だから栄生と呉葉に何のやりとりがあったのかも、現当主の思っていることも分からない。

退院すると、時間は無情だと思った。栄生は疾うに大学に受かり高校を卒業していて、その後は聖の家に居ると聞いた。

退院した脚で向かおうと思ったが、嶺に止められ、屋敷に一度戻ってきた。

その理由が、縁側を歩いてやっと分かる。

大きな桜の樹。その周りに無数の草花。

夏に栄生が言っていたことだ。そして、いつか梢がやろうと思っていたこと。

一人で作業をする栄生の姿を思い浮かべて、泣きそうになった。



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