優しい爪先立ちのしかた




「卒業式終わった後、病室に来る途中で事故った。大きい傷は出来なかったけど、頭を強く打ったらしい」

嶺の声に梢の顔色が変わる。

「落ち着け。あいつはお前より丈夫に出来てる。半日経ってケロッと目を覚ました」

「ケロッと……」

安堵の表情を見せるのは早かった。
検査に一日中付き添っていたのは嶺だった。

では今、栄生は何をしているのか?

「栄生は俺のことを知らないと言った」

どこかで、聞いた話だ。

「親のことも分からないと。友達のことも担任の名前も忘れてる。ただ一人、覚えてる奴がいた」

「記憶喪失?」

「医師はそう診断してる。これから記憶が少しずつ戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。何より心理的な原因が大きいらしい」


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