優しい爪先立ちのしかた
喧嘩をしたときの話だ。
「栄生ちゃん、尾形さんとも寝たって言ってて」
「…はい、それで」
「急に、その尾形さん、本家に返されちゃったらしいんですよ。でも、その次の日に、」
一瞬カナンの瞳の奥が揺れた気がした。揺れと、怯えが交錯している。
辺りは暗くなり始めたが、商店街の灯りの方が強い。
「一番海に近いバス停で、大量の血が溜まってて、それが尾形さんのだって噂があるんです」
梢は眉を顰めた。
どうもカナンの話には決定的なものが感じられない。
「それは、栄生さんには気を付けろって話ですか。一体何を根拠に」
「その日、栄生ちゃんと仲直りしようと思って、今日みたいにコロッケ持って家に行ったんです」