優しい爪先立ちのしかた

喧嘩をしたときの話だ。

「栄生ちゃん、尾形さんとも寝たって言ってて」

「…はい、それで」

「急に、その尾形さん、本家に返されちゃったらしいんですよ。でも、その次の日に、」

一瞬カナンの瞳の奥が揺れた気がした。揺れと、怯えが交錯している。

辺りは暗くなり始めたが、商店街の灯りの方が強い。

「一番海に近いバス停で、大量の血が溜まってて、それが尾形さんのだって噂があるんです」

梢は眉を顰めた。

どうもカナンの話には決定的なものが感じられない。

「それは、栄生さんには気を付けろって話ですか。一体何を根拠に」

「その日、栄生ちゃんと仲直りしようと思って、今日みたいにコロッケ持って家に行ったんです」



< 54 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop