優しい爪先立ちのしかた

栄生に噛まれた所を手で覆う。これは痕になりそうだ、と考えながら後ろ姿を見ていた。

男女が一緒の部屋に居れば何かが起こる。それは、彼と彼女の間では例外が発生する。

大体において、栄生の中では梢は人間ではなくゴールデンレトリバー、つまり犬なのだ。

そんな相手に何をすることが出来よう。

瓶の蓋が回される音がした。疑問に思いながら栄生を見ると、薬のようなものを口に含んだ。

「なんですか、それ」

「え?」

コップに水を注いだ栄生が、現れた梢の方を向く。何って、睡眠導入剤、ときちんと答える。

梢は顔色を変えた。

元々あまり顔に出さない男なので、一緒に住み始めた栄生にも分からない表情の変化があるのは知っていたが。

咄嗟に、身を守るように瓶を握る。


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