幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
結局、礼太の要望は聞き入れられなかった。
そしてそのことに、一番ほっとしているのは多分礼太だった。
あの地下牢での悪夢に埋もれた恐慌状態が嘘のように、気持ちが凪いでいる。
華女は青白い顔をだるそうに傾けて、礼太に向かってひたすら視線を注いでいた。
おずおずとそんな華女に微笑みかけると、華女もまた、躊躇うように微笑んでみせた。
「………最後に一つ、聞いていいですか。
『奥乃家』と『奥乃姫』って……どんな関係があるんですか」
その問いに、答えは与えられなかった。
『いずれ、嫌でもわかる』
遠い目をした廉姫が、ひっそりとそう言っただけだった。
自分の部屋に戻った礼太は、その場に崩れ落ちた。
身も心も、疲れていた。
こうしている間にも奥乃姫がばりばりと自分の内側を食い破って出てくるのではないかという恐怖は頭の片隅にあったが、廉姫がどうにかしてくれると言ったじゃないか、と投げやりな心の声に促されるまま、思考を放棄した。
しばらく伏せっていると、天井から、聞き覚えのある声が響いた。
声変わりの途中のかすれた声。
普段はもっぱら幼い声音で語りかけてくる妖霊もどきの声だった。
『……イくん、レイくん』
うっすらと目を開けて、また閉じる。
『あらら……ごめんね、疲れてるんだよね。大変だったって聞いたよ、廉姫に』
礼太はようやく、ちゃんと目を開けて、身体を起こした。
「……廉姫に会ったの」
『うん、やっぱりおっかなかったけど、奈帆子のちっちゃい頃に少し似てて可愛いかった』
礼太は思わず口を綻ばせた。
廉姫が可愛い、か。
確かに、見た目はとても可愛らしいのだ、あの姫君。
『脅されたよ、この屋敷に入れてやったのは私の温情だ、せいぜい礼太の役に立て、だってさ。だから言ってやったよ、当たり前だって。なんてったって、レイくんは僕の家族の恩人なんだから』
無邪気な声に邪気を抜かれる。
礼太は思わず苦笑った。