星の音 [2013]【短】
まだ不安げな彼女の前を歩き、本棚に囲まれている狭い店内を進む。


詩集を置いてある棚から一冊の本を取り出し、夜空の写真が表紙になっているそれを差し出した。


「はい」


「“星の音(ネ)”……?」


「きっと、あなたの心を元気にしてくれると思うわ」


そう言って笑うと、彼女の表情が明るくなった。


「これ、下さい!」


「はい」


会計を済ませ、紙袋に入れた“星の音”を手渡す。


「あの、お姉さんのお名前を訊いてもいいですか?」


彼女はそれを受け取りながら、遠慮がちにあたしを見た。


「星子よ」


「星子、さん……」


呟くようにあたしの名前を紡いだ彼女は、フワリと微笑んだ。


「また、来てもいいですか?」


「えぇ、もちろん。それを読んだら感想を聞かせてね」


「はい!きっと、素敵な感想を言えると思います!」


「え?」


「だって、お姉さんみたいな本だと思うから」


彼女は、ここに来て初めて満面の笑みを浮かべた。


< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop