あなたと私のカネアイ
「俺は結愛を求めてるよ。お金が欲しいならあげる。文句も言わない。ほんの少しでもいいから、俺に寄りかかってみて? 俺のことを必要としてくれたら、嬉しい」

 そっと、円に抱き寄せられる。
 さっき泣き顔を見せてしまったせいか、これ以上みっともない姿はないという諦めにも似た気持ちがあって、そのまま彼の胸に体重をかけた。
 見返りを求めない、それどころか私の欲しいものを全部くれるという円は、お母さんやお父さんとは違う。
 
 必要としてくれたらって……それは、円が「生きる理由」になってくれるってことなのかな。
 そんな大げさなことを真面目な顔して言う夫は、やっぱり可笑しいなって思った。

「……円って、変。宇宙人みたい」

 出会ってからずっと思っていたことがポロッと口をついて出る。
 すると、円は少し身体を離して私の顔を覗き込むようにした。
 その瞳が真剣で、息を呑む。

「茶化さないで。結愛は大げさって言ったけど、結愛は自分の存在意義がお金で語られているのが嫌なんでしょ?」

 何かある度に「お金」と言われるのが嫌だった。
 私があの家にいることで、私が生きていることで、お金がかかると文句を言われるのがつらかった。
 どうして私は、お金を消費するだけのガラクタなの?

「結愛に必要なのはお金じゃないよ。たくさんあったって、使ってないのがその証拠だよ。結愛がほしいのは……愛でしょ?」
「――っ、ちが、うよ」

 ドクン、と心臓が音を立てた。同時に内臓が浮き上がるみたいな気持ち悪さに襲われる。
 咄嗟に零れたのは否定の言葉だったけれど、心の中では円の台詞が響いた。

 ――結愛がほしいのは、愛でしょ?

 私は自分でお金を稼げるようになった。
 もう、文句は言われないはずだった……それなのに、どうして今も「お金のかかった子供」なの?
 ずっと、そうなの?
 私はずっと……
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