あなたと私のカネアイ
「結愛の言いたいことは、わかった」

 それから何かを考えるように開きかけた口を閉じ、フッと息を吐き出す。
 当然だ。いくら夫婦になったからって、こんな妻の家族問題をぶちまけられたら迷惑だ。

「いいよ。無理に合わせてくれなくても」

 私に近づくためにわかったふりをされるのは嫌だ。だけど、円は首を横に振る。

「そういうんじゃない。うまく……言えないけど、結愛の言ってることは間違ってないと思う。俺の正直な気持ちは、なんていうか……半々、かな。結愛の意見に賛成と反対とどっちもある」

 言葉を選んでいるのか、円は珍しく途切れ途切れに喋る。

「俺は、愛を信じてるから……結愛のご両親が、結愛の言うような体裁だけで結愛を産み育てようと思ったわけじゃないと思うし、そうだって信じたい。でも、俺は子育てをしたことがないし、親の気持ちはわからない部分も多いから、あまり偉そうなことは言えない。ただ、面と向かって子供に苦労を語るのは、いいこととは思えない、かな」

 そう言うと、彼は私の手を握って力なく笑った。

「結愛の求めてる答えではないだろうけど、結愛がご両親をあまりよく思っていない理由はきちんと理解したつもり。それを否定しようとは思わない。でも、生まれてこなければ良かった、みたいな言い方は……しないで」

 円の手が、私の頬に触れる。
 一瞬、ピクッと身体が跳ねて……でも、その大きな温かさにゆっくりと力が抜けた。

「生きる理由はいくらでもあるよ」
「何それ。大げさ」

 突然スケールの大きな話になったせいか、思わず笑ってしまった。
< 104 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop