あなたと私のカネアイ
「キス、したい」

 荒い呼吸のまま、円の唇に自分のそれを寄せようとしたのはほとんど無意識だった。
 でも、円は唇が重なる前に「口じゃなくて……」と言って、胸の頂をキュッと摘んだ。

「あっ、や……やだ」

 首を横に振って拒否すると、円は私の肩に顎を乗せてカットソーをおろしてくれた。そのまま少し強く抱きしめられて……私の呼吸が落ち着く頃、円は長い息を吐き出した。

「お風呂、入っておいで」

 そう言って身体を離してくれた円は、普段と変わらない穏やかな笑顔だ。
 ブラが浮いたままなのが恥ずかしくて胸の前で両手を交差してなんとか頷くと、円は頭をポンポンと優しく叩く。

「お母さんには、うまく言っておくから。結愛から連絡はしてないんでしょ? 後は俺に任せて。結愛はお風呂、ほら」
「え……あ、うん……」

 返事をしたものの、身体が痺れたままのような感覚が内側に残っていて、動けずに円を見る。
 なんか、話が逸れた……? ううん、戻ったっていう方が正しいのかも。変だったのは、その間に挟まってた円との――
 見つめていた円の表情が、だんだん困ったようになっていく。眉が下がっていって、少し視線を逸らされた。
 それを見ていたら、なぜか一層恥ずかしくなって慌てて立ち上がる。

「お、おやすみなさい!」
「ん、おやすみ」

 何これ。
 身体が熱くて、息がうまくできない。
 恥ずかしさは人を殺せるんじゃないだろうかって思うくらい、心臓が早鐘を打っていて苦しい――
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