あなたと私のカネアイ
カネアイ3:理屈と感情

意地と欲求

「ていうか、あんたと円さんは夫婦だからね?」

 翌日の仕事終わり、再び佳織を呼び出して飲みに来た私は、盛大に呆れた表情の彼女に辟易としている。
 ちなみに今日は、ちゃんと円に連絡してある。

「今更、何言ってんのよ。あ、ビールもう一杯お願いします」

 佳織はやれやれとため息をついた後、近くを通りかかった店員さんにビールのおかわりを頼む。
 一方、私のジョッキはまだ一口しか減っていない。ずっと私が喋ってたからだ。内容が内容だから、すらすらとってわけにはいかなくてかなり時間を要した。

「だって、こんなの変だもん」
「はあ? あんたが変なのは元々だから大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃない! もう! 真面目に聞いてよ!」

 さっきから言いたい放題の佳織はやきとりを頬張り、もぐもぐと口を動かしながら、私をバカにしたような目で見てくる。そしてゴクリと飲み込むと、持っていた竹串の先を私に向けた。

「じゃあ真面目に言うけど、あんたの言う『変』は円さんのことが好きっていう気持ちでしょ。胸を揉まれたときの変は感じたってことでしょ」
「か、感じっ!? ちょ、ちょっと!」

 いくら騒がしい居酒屋って言っても、隣の席との距離は近い。胸を揉まれただの感じただの、そんな大きな声で言わないで欲しい。

「それも今更でしょ。あんた、さっき自分で昨日の夫婦生活について事細かに説明してたんだから」

 夫婦生活という言葉がなんだか生々しくて、熱くなった身体を冷ますようにビールをグッと飲む。

「まったく、キスマークで騒いでたと思ったら今度は胸を揉まれた? これじゃあ、円さんが可哀相過ぎる」
「なんで佳織は円の味方なのよ」

 ムッとして睨み付けると、佳織は「はぁ?」と顔を歪めた。
 少し釣り目のクールビューティなんて言葉が似合う佳織がそういう表情をすると迫力がある。めちゃくちゃ見下されてる……
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