あなたと私のカネアイ
「いくら条件を呑んでくれたからって限度っていうものがあるでしょ。円さんがこれだけあんたに歩み寄ってくれたんだから、あんたも少しは円さんのこと見なさいよ」

 円のこと――あんなに嫌だったのに、いつのまにか私の近くにいて、私の気持ちをわかってくれる人。
 私、円を店に来る男の人と比べたり、お父さんたちと比べたりしてる。それは、見てるってことだよね? 円のいいところしか、浮かばない。彼の欠点がわからない。
 わからなくて、困ってる。円のこと、拒否できなくなってる自分に困ってる。
 だって、昨日胸に触れられて身体が痺れて動けなかった。

 あのとき、私……もう少し円の体温を――

「……変、だよ」

 首を振って呟くと、佳織がため息をつく。

「今度は何が変なのよ?」
「私のことが好きとか、もっと知りたいとか、近づきたいとか……どうして、そんな……私、あんなに条件を出したのに、初めて会った日にプロポーズされて――」

 あ……そういえば。
 昨日、少し心に引っ掛かった件を思い出す。
 円にプロポーズされた日は、私が思いつくだけの条件を吹きかけてとにかく追い払おうとしたはずだ。あの日が初対面だった。
 でも、円は「合コンで会ったときに条件を全部聞いて」と、まるでその前に条件を一部聞いたみたいな言い方をしたのだ。
 それなら、初めて会ったのはいつだろう? 私にはまったく覚えがない。
 円の勘違い? いや、お金目当てを初対面で告白する私みたいな非常識な女はそうそういないだろうし、円だって強烈な印象だったと言っていた。人違いの可能性は低いと思う。

「一目惚れってやつじゃないの? あんた、外見だけは大人しいお嬢さんって感じだし。まぁとにかく、あんたもそれで頷いたんだし、円さんは初対面であんたを気に入ってくれた貴重な男なんだから、大切にしなさいよ」
「え……う、うん」

 佳織は私が考え込んでしまったことに気づいていないのか、そう言って新たなビールに口をつけた。
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