あなたと私のカネアイ
「テーブルマナーだって、普通にしていれば平気。細かいことは気にしないで楽しんでよ。俺は、誕生日を結愛と一緒にデートして楽しく過ごしたかったんだから」
「……うん」

 本人がそう言うのなら、私はなるべく普段通りにするべきなのだろう。
 ほんの少し肩の力を抜いたら、ワインの味もきちんと舌が認識するようになった。

「あ……これ、おいしい」
「でしょ? うちでも取り扱っているけど、甘めで飲みやすいから女性に人気なんだよ」
「軽い口当たりで、いいね。飲みすぎちゃいそう」
「結愛、ワイン好きだよね。今度ワイナリーとか行こうか。遠出したことないし、旅行もしたいね。結愛はどこか行きたい場所ある?」

 円は自然と会話を繋げてくれて、私も答えやすい。
 そういえば、家での食事も変な沈黙が続くことはないし、彼と過ごしていると心地良い。

「私は……テディベア博物館とか」

 自分で口にして、ちょっと子供っぽいと思う。大人のデートでクマを見に行くのは、やっぱり恥ずかしいかな。

「ああ、そういうところがあるんだ? いいね、行ってみたい。もしかして、結愛は行ったことある?」
「う、うん……小さい頃、ね」

 でも、円は笑ったりしない。それどころか、興味を示してくれて、私の心をホッとさせる。
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