あなたと私のカネアイ
 やっぱり私、円のこと好きになってるんだ。
 こんな些細なやりとりで、自分の気持ちが浮き彫りになるなんて思いもしなかった。

「いいよ。ごめん、これは俺のわがままだから。まぁ……気が向いたら、おいで」
 
 気が向いたら――円の気遣いが、今は痛い。
 自分から好意を示すには、経験も勇気も、何もかも足りないから。

「でも……」

 円に手を引いてほしいのに。
 わがままなのは、私の方だ……

 立ち上がってリビングを出て行こうとしていた円は、ドアのところで立ち止まり、私を振り返る。

「そうだ、結愛。旅行のことだけど、今度の連休に行こう。温泉は予約しておくから、結愛は予定だけ入れといて。今日はありがとう。プレゼントも……じゃあ、おやすみ」

 手に持ったプレゼントを少し持ち上げてお礼を言い、円はリビングを出ていく。
 彼の部屋のドアの開閉が遠くで聞こえても、私はしばらくソファに座ったままリビングの扉を見つめていた。

 結局、その日は円の部屋には行かなかった。
 もう一歩が踏み出せないでいる私は……一体、何に意地を張っているのだろう。
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