あなたと私のカネアイ
 佳織の言うように、円は私に歩み寄ってくれてる。
 嫌だっていうことはしないし、私が好きなことに喜んで付き合ってくれて……私、贅沢なのかな。

 私は円に何を返せるのかな。最近、ふとそんなことを思うようになった。
 人に何かをしてあげるなんてこと、今まで考えたことなかったのに……私は変だ。
 
 そうだ。
 変なのだ――これが恋とか愛とか、そんな曖昧な感情だって言うなら、私はおかしくなっちゃったんだと思う。
 どうしてだろう。
 お金の心配がなくなったから? 文句を言われなくなったから?
 私……円のこと、好き。

「結愛?」
「……え、あっ」

 無意識にギュッと繋いだ手を握ってしまって、円が私の顔を覗き込む。とても近い距離に思わず後ずさったら、円は「あ、ごめん」と苦笑して顔を離した。

「大丈夫?」
「う、ん……ごめん、何でもない!」

 ドキッとした自分の心を誤魔化すように円の腕を引っ張った。円は不思議そうな顔をしつつ、それ以上何も聞かずについてきてくれる。

 何もこんなところで「好き」とはっきり自覚しなくてもいいものを……!
 いや、少し前からたぶんそうなのだろうとどこかでわかっていたんだけど、認めたくなかった。
 今までの自分を否定することになるのが嫌で……両親と同じ道を辿るのが怖いから。
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