あなたと私のカネアイ
「他には?」
「他、は……や、優しく、して……ほしい」

 私、すごいわがまま言ってる。
 わかってる。初めてが痛いかもってことくらい知ってるのに、円に甘えてる。私……どこまで円のこと、我慢させるんだろう。
 そう思ったら、なんだか鼻の奥がツンとしてじわりと涙が滲んだ。

「結愛。嫌だって思ったところで、やめればいいから」

 円は、私が泣いてるのを怖がってるせいだって思ってるのかもしれない。
 でも、違う。
 私、やめたいなんて思ってない。円のこと、ちゃんと……好き。

「円」

 彼の首に手を回して、自分からキスをする。「好き」と言葉に出せない意地っ張りな私の精一杯だ。
 円は少し驚いてたけど、ゆっくり私の身体を指先でなぞりながらキスを深めてくれた。

「ちゃんと、優しくするから」

 私を安心させるようにそう囁いて、円は私の身体に触れる。
 大きな手で肌をなぞられると、触れられていない身体の奥に熱がたまっていくみたい。
 ぞくぞくと背を駆け上がる期待。それは、じわじわと不安よりも大きくなる。
 円は言葉通り優しく、慈しむように私を包み込んでくれた。

 そっか。この行為は、こんなに熱くて愛おしいものなんだ。

 キスやセックスで誤魔化して、愛なんて形のないものに惑わされて生きるなんてバカみたいって思ってた。でも、形がないものをこれだけ感じられる行為は……他にないのかもしれない。
 ずっと、心のどこかで汚いものだと思っていた。ただ人間の欲を満たすだけの捌け口なのだと。
 
 だから嫌だった。
 そんな行為の先に生まれてきた自分が。親の自由を、お金を奪うだけの子供が。

 でも。
 今は、違うって思える。
 少なくとも円は、私を愛してくれているんだと――そう感じられた。
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