あなたと私のカネアイ

変化と癖

 ふわふわとした感覚にふと目を開けると、円が私の頭を撫でていた。
 その表情が、なんていうか……とても甘くてくすぐったくなる。
 昨日は行為の後、羞恥に耐えられなくて背中を向けて寝たと思ったのに。だって、どんな顔をしたらいいのかわからない。

「ごめん、起こした?」
「ん」

 やっぱり恥ずかしくなって身体を捩って円に背を向けようとすると、彼は私の腰を強く引き寄せた。
 Tシャツ越しの大きな胸板に顔がくっつく。

「ダメ。せっかくこっち向いてくれたんだから、逃げないで」

 寝起きのせいで掠れた声を耳元に落とされると、昨日のことが思い出されてビクッとなる。
 円の声も、表情も、匂いも……たった一晩の、肌を重ねた事実だけでこんなにも甘く色気のあるものに感じるなんて、少し怖い。
 円がギュッと抱きしめてくれた昨夜は、とても気持ちよくて満たされたのに。眠ったら冷静になったのかもしれない。
 でも、それってやっぱり、私は円に流され――

「また、変なこと考えてる」

 むにっと、頬を抓られて眉間に皺が寄る。

「後悔……してる?」

 そっと抓った場所を指先で撫でながら、円は強張った表情で私を見つめる。
 私は首を振って否定した。後悔はしていない。
 下腹部に残る違和感は嫌なものじゃないし、こうやって円の隣で眠ったこと、目が覚めたこと……くすぐったいこの気持ちはたぶん嬉しいっていう感情なんだ。
 それでもぐるぐる考えようとする頭は、長年の癖というものなのか――意地や理性という名前のついた私の悪いところだ。
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