あなたと私のカネアイ
* * *

 チェックアウトの前にもう一度温泉に入ったり、ホテルを出た後もまた観光したり、ゆっくりと一日を過ごして帰ってきた場所は私の実家。
 車を降りてインターホンを押し後、お母さんが出てくるまでの時間は妙にそわそわしてしまって、円に笑われた。
 正直、何か今までと違う対応ができるかと問われれば、答えはNOだ。でも、結婚式の直前で喧嘩をしたままというのもいけないと頭ではわかっていて……ただ、私が悪いと思っていないことを謝ったって仕方ないと思う。そういう考えは、子供なのかな。

 それでも、どうしてか今朝は……円が一緒なら大丈夫かもしれないって思った。
 その“大丈夫”も、ただ漠然とそう思っただけなんだけど、今を逃したら、またあやふやにして同じことを繰り返してしまうだろう。
 だから、円に実家に行きたいと頼んだのだ。

「結愛、円くん。どうぞ入って」
「お邪魔します」

 お母さんは普段通りみたい。時間が経ってまたケロッとしてるんだ。

「……お邪魔します」

 そう言って靴を脱ぐと、お母さんは私を振り返って「おかえり」と言った。
 たった一言なのに、なんだか心が揺れる。
 他人行儀をしたくて仕方ない私を咎めることなく、普段通り振舞うお母さんの言動は、優しさなのかもしれないと、ふと思う。
 大きなきっかけがあったわけでもないのに、なんで急にそんな風に感じたのかはわからない。
 でも、確かに私の中で、何かが変わりつつある。
 それは、円と出会ってからの変化だ。
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