あなたと私のカネアイ
「結愛……俺の今の気持ち、わかる?」

 円がそう言って私の首筋に顔を埋める。

「ずっと、結愛に触りたかった。言葉だけじゃ足りないことも、あるよ……だから、ずっともどかしかった。繋がることだけがすべてじゃないけど、でも、俺はこうやって結愛が全部を見せてくれて……嬉しい」

 円の息が首筋にかかってくすぐったい。

「いつか、結愛は“快楽に流されて”って言ってたけど……俺は、好きでもない人と抱き合っても気持ちいいとは思えない」
「…………うん」

 私が小さくそう言うと、円が微かに笑った。

「望まない妊娠に無防備な人も少なくないけど……子供が欲しくても妊娠できない人だっているでしょ? だから、結愛が生まれてきたことは、意味のあることなんだよ。子供を授かるっていうことは……そんな簡単なことじゃないんだから」
「うん」

 もう一度頷くと、円は私から離れて額にキスをしてくれた。それからゆっくり起き上がって、ベッドを降りる。
 私も身体を起こしたけど、円は「もう少し寝てもいいよ」なんて言う。

「ううん……もう起きるよ」

 テーブルに置いてた携帯で時間を確認すると、もう八時を過ぎてる。たぶん、円は私が起きるのを待っててくれたんだと思う。
 携帯を操作して新着メッセージを確認したら、それはお母さんからだった。

 チラッと円を見ると、私に背を向けて着替えてる途中だ。
 しなやかな背中……Tシャツに薄手のパーカーを羽織り、こちらを振り向く。
 目が合うと、円は首を傾げて「どうしたの?」と優しく聞いてくる。
 
 今なら、大丈夫かもしれない。
 根拠はわからないけど、なんとなくそう感じた。

「……帰り……うちに寄りたいの」

 そう言うと、円は少し目を見開いたけど、すぐに微笑んで「いいよ」と言った。
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