あなたと私のカネアイ
「結愛。俺たち、夫婦になったんだよ? その辺に関する条件はなかったと思うけど」
「わ、私に『愛を求めないこと』って言ったじゃないですか!」

 確かに、ダイレクトには言わなかったけど!

「愛がなくてもできるって言ったら?」
「なっ!? そ、そういうことは他でやってきてください!」

 そう叫ぶと、円さんははぁっと長い息を吐き出して額に手を当てた。
 それから顔を上げて、やけに真剣な目で私を見る。

「結愛。結愛の世界が“お金”なら、俺の世界は“愛”だよ。俺にとってお金は大して価値がない」
「そう、ですか……別に、円さんがそう思うのならそれでいいと思います」

 色も形も、存在すらよくわからない愛を信じるなんて私にはできない芸当だ。

「結愛の言う『そういうこと』はお互いの愛を伝えるための行為だと俺は思ってるから、そこに愛がなければしない。だから、俺は結愛以外の人とはしない」

 その言い方だと円さんが私を好きみたいに聴こえるんだけど。

「結婚も同じ」
「何、言って……」

 愛がないと結婚しない――冗談でしょう?
 円さんと私は会って数回しか会ったことがなくて、私は円さんを愛さないとまで言って結婚したのに、「愛がなければ結婚しない」なんて。
 この結婚に愛がないことは同意の上だったじゃない。

「俺には愛があるよ」

 私の頭の中を見透かすように言う円さん。

「正確に言えば、今はまだ愛とはちょっと違うかもしれないけど……結愛に会ったとき、直感で思った。結愛は俺の運命の人だって。一目惚れってそういうことでしょ?」


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