あなたと私のカネアイ
「ねぇ、結愛。俺の両親は、お互い一目惚れだったんだって」

 俺を拒絶しようと一生懸命丸まってる結愛の背中に向かって声を掛けると、少しだけ視線の先で布団が上下した。
 だけど、俺を無視することは結愛の中ですでに決定事項らしく、何の返答もない。

「父さんが仕事で海外出張したとき、当時留学してた母さんのバイト先で食事をしたらしいんだよね。まぁ、同じ日本人っていうのもあって話も弾んで、連絡先を交換して……すぐに付き合うことになったって。お互いに一目惚れだったっていうのは後で知ったらしいけど」

 そう話しながら、結愛の嫌いそうな話だなって思って苦笑する。

「父さんも母さんも、その話をするときはいつも俺に言ってたよ。運命の人に会ったら、肌でわかるんだって」

 男がこんな話に憧れるなんて、世間では珍しいのかな? でも、俺は両親のような夫婦を素敵だと思ってるし、愛も運命も信じてる。
 運命の人に出会うという感覚は、ずっとよくわからなかったけど……結愛に初めて会ったとき、どうしてか「近づきたい」って思った。
 肌になじむ、っていう表現があってるかはわからないけど、結愛の纏う雰囲気とか、人との距離をとることに必死になってる姿に惹かれた。
 この一見強そうな女の子が自分に甘えてくれたらいいな、って思った。
 なんでだろう。無条件で、結愛のことなんて何も知らなかったのに、そう思った。たぶん、それが運命ってやつかな。
 だから、なかなか話しかけるタイミングを見つけられない自分にやきもきしてた。というか、きっかけが見つからないって近づけない自分が可笑しくて、連絡先を聞けないことが悔しくて。
 俺ってこんなに女々しい奴だっけ、なんて思ってた。
 でも、突然話しかけたらそれこそ結愛は俺を変人扱いしただろう。今もなんとなく、彼女が自分を違う世界の人間のように思っていることは感じている。
 だから、合コンで会えたときは、結構必死だった。自然な形で声を掛けられる場で、結愛も俺を認識してて……この機会は逃せないって思ったから、ブラックカードまで使って繋ぎ止めた。
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