あなたと私のカネアイ

秘密の触れ合い

「結愛」

 何度呼んでも結愛が振り向くことはなくて、思わずため息が漏れた。彼女もいつもため息をついてるけど、きっと俺のそれとは意味が違う。
 結愛は明らかに俺をうっとおしいと思ってる。
 俺も「私に愛を求めないこと」という条件を出されたとき、それなりに覚悟はしていたつもりだったけど……

 ――『たった二ヶ月しか私と過ごしてない円にはわからない』

 そんなことない。
 二ヶ月でも、毎日顔を合わせてたら少しずつわかってくることもある。
 元々、俺は他人の心の変化には敏感だと自負している。それに、結愛は思ってることが顔に出る。というより、隠そうとしてないという方が正しい。
 他人の自分への評価を気にしないかの如く、強気に出てくるくせに、心の中では一番それを気にしてる。強く反発した後の俺の反応を怖がってることも隠せてない。
 愛を信じないっていうのも、多少意地を張ってる部分がありそうだ。
 ま、確かに幽霊と同じように愛は見えないものだし、簡単に信じられないと言われてしまえば全否定もできない。

 正直、そのうち心を開いてくれるかなと軽く考えてた部分があって、俺はちょっと反省した。
 過去の恋愛のせい――例えば浮気が原因で別れたとか――で結愛が愛を拒絶してるなら、俺が前の男と違うってわかってもらえればいいなって思っていた。
 その点、俺はわかっていなかったんだろう。
 結愛の哲学は、もっと深い場所に種が埋まってる。小さい頃から親に刻まれてきたことだからだ。
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