あなたと私のカネアイ
 * * *

 職場に着く頃には、心も大分落ち着いて、私はいつも通り接客に集中する。
 今日は土曜日でお客さんも多めだ。

「だって、こっちの方が、指が細く見えるでしょ?」
「え……うん? そう……かな?」

 僅かに首を傾げた彼女が隣の彼氏を上目遣いで見つめる。彼氏の方も困ったように首を傾げて、眉を下げた。
 彼女が指が細く見えるからと選んだ指輪の方は、先ほど二人が見ていたものよりもちょっと高い。デザインももちろん微妙に違うのだけど、この彼氏は値段しか見ていないと思う。

「そうだよ。こっちがいい」
「でも……その、ちょっと、予算オーバーっていうか……」
「結婚指輪なんだよ? 一生の思い出なんだから、少しくらい贅沢してもいいじゃん!」

 そうそう。結婚指輪くらい、奮発して買ってあげればいいのに。高いって言っても、彼らが見ているのはどちらもペアで十五万ほどのものだ。元がそれなりの値段なら、そこに二~三万くらい上乗せしても変わらないと思う。

「カナちゃん、そう言って式場のプランだって予算を大幅にオーバーしたじゃない。お色直しの回数も増やしたからドレスだって……」

 ああ、嫌だ。
 この二人、今からこれじゃあ、結婚したらお金のことで毎日喧嘩になるんじゃないだろうか。
 ごちゃごちゃと揉め始めたカップルを見つめながらこっそりため息をつく。
 うちとは違うんだな、としみじみ感じる。円は私からの生活費を受け取らない上に、ブラックカードが使われてないことを「どうして使わないの?」と言うくらいだ。
 そういう点では、彼と結婚して正解だったのかもしれない。
 ファーストキスを奪われたり、ベタベタしてきたり、そういう部分には困ってるけど、お金で揉めることは一切ない。
 お金がなければ、愛もなくなる。それが世の中の真理のように思えた。
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