あなたと私のカネアイ
「お客様」

 ショーケースの端から視線を流していき、並んでいる商品をザッと確認して、少し離れたところにディスプレイされていた指輪を出す。

「こちらの形はそちらの商品と同じものですし、ダイヤは少し小さくなりますが、その分お値段は彼氏さんのご希望に沿うかと思います」

 そう言って、指輪を取りだして見せると二人は少し表情を和らげてお互いを見る。

「うん、これなら……」
「じゃあ、これにします」

 彼氏はホッとしたように彼女の頭を撫でて笑った。彼女ははにかんで頬を染めている。
 この短い間の浮き沈みはよくわからないけど、とりあえず丸く収まったのでいいか。そう思い、営業スマイルを浮かべて「かしこまりました」といい、指輪に傷がないかなどを確認していく。
 お会計を済ませて二人を見送った後、ため息をつくと美希が近づいてきて肩をポンと叩かれた。

「お疲れ様。喧嘩にならなくて良かったね」
「うん」

 店頭での指輪選びで揉めるカップルはたまにいる。
 今のように少し怪しい雰囲気になるくらいは慣れたけど、さすがに言い争いを始められるとこちらも対処に困ってしまうものだ。もちろんそんなことは滅多にないが。
 婚約したばかりだったり、結婚式を直前に控えたカップルというのは、まだ「幸せ」という感情が強いから、少しの行き違いは霞んでしまうんだ。自分たちはラブラブだっていう思い込みがまだ効果的な時期だから。
 それこそ、キスやセックスをして曖昧にするような人だっているんだろう。
 あのカップルも……店を出るときからベッタリくっついて、彼氏は彼女の腰を撫でてたし。ああ嫌だ、そうやってお金がないことを誤魔化すんだから。
 世の中、円みたいに「たくさんお金を使って」っていう男ばかりなら信じられるのに。
 お金がないから愛を主張するより、愛があるからお金を稼いでくれるって言う方が、よっぽど現実的で――…
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