あなたと私のカネアイ
「またお前はそうやって……これから自分の生活に金がかかるんだから、そんな余裕ないだろう」
「あるわよ。円はお父さんと違ってケチじゃないし、今の生活費は全部払ってくれてる。余った私のお給料は全部うちに振り込むから」
「そういう問題じゃないだろう。お前にだって子供ができたら――」
「子供なんか産まない!!」

 ガン、とテーブルを叩いた手が痛い。でも、頭に血が上ってそんなことはどうでも良かった。

「結愛、ちょっと落ち着い――」
「お金のかかる子供なんか要らない! 損するもんね? 思い通りに育たないもんね? 苦労して育てたのにサッサと結婚しちゃうもんね?」

 それだけ叫ぶと、私はカバンをひったくるように持って立ち上がった。リビングの扉を乱暴に開けて玄関でパンプスを引っ掛ける。

「ちょっと、結愛。貴女また――」
「『また』同じ話をされるのは迷惑。お金を掛けたってだけで良い親を気取られるのも迷惑だから」

 追いかけてきたお母さんは、私の言葉に喉を詰まらせて目を潤ませる。
 ――泣きたいのはこっちの方だ。

「貴方たちみたいな人の娘に生まれたことほど運の悪いことはなかった。結婚式にも来ないで欲しいくらいなんだけど」

 ああ……これは、言っちゃいけないことだったな。そう思ったけど、もう口から滑り落ちた音は拾えなくて、私はそのまま家を出た。
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