本当はね…。

一階の浴室。
浴室に来るまでにリビングからテレビの音がしたから、多分ユキ先輩とかが観てるのかなと思った。
とにかく、早めに脱いで入って出てこよう。なんて思いながら脱衣所で髪留めを外す。
上と下の服も脱いでそばにあったカゴにたたんで置く。
洗面台の鏡に映る自分の姿を見て、最近気になるお腹周りをさすったりして…。
「はぁ…。やっぱり太ったよなぁ…。」
ちょっとショック。
とか思ったけど、そんな裸も早く服で隠したいからお風呂に入る準備を続ける。
今日は、まぁそれなりに勉強も進んだし効率良かったのかも。
下着を脱ぎながら今日を振り返ってみたり…。
完全に真っ裸。小さなタオルを胸元に巻いて一息。よし、入るか。
なんて完全に気を抜いていたその時だった…‼‼‼
「七瀬ー。わり、寝巻き忘れたってミサキから聞いたから持ってき……た…ん…。」
いきなり脱衣所のドアが開いた。完全に気が抜けていた私は、ただ開くドアに視線を向けることしかできず…。
そこから登場したのは…。佐々舞尋。……。…え。
お互い三秒の停止。そして…。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼‼‼‼」
叫ばずにはいられなかった。
「わ、わわわわわりっ。」
二人揃って顔を真っ赤にしながらテンパる。
佐々舞尋はすぐにドアを閉めた。
何今の⁉何今の‼‼
見られたよね。裸見られたよね⁉太ってきたこの裸を見られたよね⁉
泣きたい…。今すぐに泣きたい。
「わりぃっ。ごめん。本当にごめん。ミサキが今入って行ったって言ってたからまだ服脱いでないかと…。マジでごめん。」
佐々舞尋もドアの向こうで必死になって説明してくれている。
おそらく嘘はついていないだろうし、佐々舞尋自身も何が起きたのか整理中だろう。あそこまでパニックになる佐々舞尋なんて初めて見たし。
ということは…。これは、またミサキ先輩の仕業か…。さっきミサキ先輩と話してから時間経ってるし、確実に私が服脱いでるってわかるはずなのに…。タオル巻いてたから良かったものの。あの男は…‼
ミサキ先輩…勘弁してくださいよ…。恐ろしい。
「いや、あの。大丈夫ですから。ていうか、逆にすいません。お見苦しいものを…。それに寝巻き……わざわざありがとうございます。」
気遣ってもらったのに、あっちに責任感じさせるなんて申し訳なさすぎる。
「わりぃ。ミサキの言うことそのまま信じた俺が悪い。ごめん…。もっと考えれば良かった…。」
かなり追い込まれちゃってる様子がドア越しに伝わってくる。
「いや、本当に大丈夫ですから。わざとじゃないってわかってるし…。」
心臓の音がうるさい。
「そか。ごめんな。それ、寝巻きとして使って良いから。……それじゃ。」
佐々舞尋の歯切れが普段よりも悪い気がした。多分、気を遣ってくれているのだろう。脱衣所のドアの前から遠ざかって行く足音。
なんとかホッとできるようにまでは、私も平常心を取り戻せたようだ。
「悪いことしちゃった……。」
トラウマとかになっちゃわないよね…。
………。
ようやく落ち着いてきた。
…けど、落ち着いてきたら落ち着いてきたで色々と考えてしまう。
太ってるなぁとか思われたらどうしよう、とか。色黒なんて思われてないか、とか…。
「あー、もうっ。入るっ。」
頭の中がごちゃごちゃになってしまう。
とにかく、今はお風呂。お風呂に入っちゃおう。話はそれからだ。
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