生意気なKiss
ふいに自分の店を持ちたい、と言っていた真木の顔を思い出す。
高校を卒業したら、料理の道に進むと言っていた真木。
あたしは
…どこに向かってるんだろう。
「爽月入るぞ」
そんな親父の声がして、返事をする前にドアが開いた。
「今暇か?」
「勉強中だけど」
「悪いが俺の代わりに道場出てくれ」
はぁ!?
「あたしが!?」
「今から小学生の稽古なんだが、急に出なきゃいけなくなってな」
「だからって…大岡さんにでも頼めよ」
大岡さんっていうのは親父の一番弟子で、消防士。あたしも小さい頃からよく稽古を見てもらってた。
「連絡したんだが皆無理だと」
「えー…」
頼むよ、と手を合わせる親父は稽古中とは別人のように眉を下げる。
「お前しかいないんだよ」
「でも…」
いくら小学生っていっても
「お前なら出来るだろ」
ちょっと驚いて親父を見る。
親父は少し悪戯っぽく微笑むと
「じゃ頼んだぞ」
と、あたしの返事も聞かずに階段を下りていった。
「あっおい…」
…しょーがねぇな。