優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
目を閉じると一瞬で眠りに引き込まれているのがわかった。

泥のように身体が重たくなって、さっきまで頬で耳で感じていた謙信の腕の感触と血液が流れる脈動も感じられなくなった。

だが心地いい倦怠感に抗えずに身体を丸めてじっとしていると――瞼の奥が白くなった気がして、桃は目を開けた。


「え……誰…」


ぎしぎしと揺れる乗り物にいつの間にか乗っていた桃は、いつの間にか目の前で畏まって正座しているひとりの女の前に座っていた。

歳の頃は15,6位だろうか――朱色の袴の巫女姿の女は笑えばとても可愛いであろう整った顔をしていたが…表情は凛としていてぴりりとした空気が流れている。


「あなたが……前世の私…?」


問うがこちらの姿が見えていないのか、桃を通り越して遠くを見ている。

桃たちが乗っていたのは輿のようで、御簾を上げようとしたが手は通り越して外に飛び出てしまい、半透明になっている両手をじっと見下ろした。


「私…今…透明なんだ…」


「撫子(なでしこ)様、毘沙門堂へ到着いたしました」


「はい」


凛としているのは表情だけでなく、声は高く透き通っていて耳に心地いい。

御簾が上がると付き添っていた白い狩衣姿の大勢の男たちが撫子と呼ばれた女性の手を引いて見たことのある寺の前に立つ。

周囲には人だかりができていたので、今まで見てきた夢のおかげで撫子が自分の前世の姿で、巫女であるということだけはわかっていたが――


「そなたは本日より毘沙門天の元に召されるまでの間、この寺に籠もって祈りを捧げよ。それがそなたの宿命なのだ」


「はい。貴きお役目、確と努めさせて頂きます」


迷うことなき決意。

階段を上がって扉を開けると、正面には大きな毘沙門天像が鎮座していた。


「毘沙門天さん……」


「毘沙門天様……」


桃と撫子が同時に囁く。

まるで魂がシンクロしたかのように。
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