優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
夕餉を食べ終えた後――すぐに床へ連れて行かれるかと思って身構えていた桃だったが…思いきり肩透かしを食らっていた。


どうやら女中たちがせっせと運んでくる酒が銘酒らしく、ただひたすら呑みながら楽しそうにしている。

…史実上では謙信の死は酒に絡むものだったので、最初は仕方ないと考えてもりもりご飯を食べていた桃の手もいつしか止まり、謙信を睨んでいた。


「謙信さん」


「ん?なんだい、声に剣が籠もっている気がするなあ」


「お酒飲み過ぎじゃない?少しならいいけどあんまり呑むと身体に良くないし。私ずっと前から謙信さんにそう言ってたよね?」


刺身や山菜にほとんど手を付けず、机の上には空になった徳利がごろごろ。

それを廊下に出すとその本数だけお代わりが廊下に置かれているのだが――謙信はがっかりして悲しそうな顔をしつつ、徳利を1本桃の前で振って最後のお代わりをねだった。


「じゃあ最後にもう1本。駄目?」


「それ呑んだら寝ようね。早く出発するんでしょ?その次は私たちが育った村だよ?」


「うんうん、わかってるよ。桃は心配性だなあ。私はよっぽど酒飲みで?それがたたって死んだわけなんだね?」


「……その話はしたくないから、呑むなら一気にじゃなくてゆっくり呑んでね。謙信さんのお刺身頂きっ」


食い気の止まらない桃の食べっぷりは豪勢なものだ。

見ているだけで食べている気分になっていた謙信は、機嫌が戻ったふりをしながらも心配してくれている桃のためにそれ以上呑むことをやめて桃ににじり寄り、背中からぎゅっと抱きしめた。


「!?け、謙信さん?どうしたの?」


「もう寝よう。桃が止めてくれなかったらもっと飲み過ぎてただろうし。さ、桃」


手を引かれて立ち上がった桃は、酒のせいでちょっと色っぽく見える謙信にどきどきしつつ、抵抗を見せた。


「な、なんにもしないよね?ねっ?」


「んー…どうしようかなあ……うん、じゃあ我慢しようかな。私の美姫がそれを望むなら」


先に寝転んだ謙信は、自身の左腕をぽんぽんと叩いて桃に笑いかけた。


「腕枕をしてあげようか。三成が乱入してくることもないし、ゆっくり楽しめると思うよ」


「うん!」


謙信の隣に滑り込んだ桃は、大好きな腕枕をしてもらってご機嫌だったが――それも束の間、一瞬で眠りこけてしまった。
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