優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
「撫子さんはこの村の人なの?どうして巫女に選ばれたの?今いくつ?」


撫子が唖然とするほどに質問ばかり次々に口にして困らせてしまった桃は、井戸から水を汲んで桶に移すと、細腕の撫子に代わって重たい桶をひょいっと持ち上げた。


「桃さん、桶は私が…」


「ううん、いいのいいの。私しばらくお厄介になるかもしれないから」


現代にいた頃から掃除洗濯は日課だったので、桃は意外と力が強い。

それに撫子と楽しく会話をしているうちにいつの間にかお堂の中に入ってしまい、小さな台所で火打石を使って火を熾すと、釜戸に薪をくべた。


「私はこの村の生まれで、巫女に選ばれたのはつい最近のことです。歳は17になりました」


「そっかあ。で…あの…この村で1番偉い人に会ったことある?あ、息子さんの方ね。多分男前で優しくて柔和な人だと思うんだけど…」


中腰になって膝を抱えた桃に倣って同じポーズをして薪を釜戸に入れる手伝いをしてくれた撫子は、首を捻って考えた後、横に振った。


「いいえ、私は貧しい家で育ちましたから…。恐らく庄屋様のことだと思います。この村で1番大きくて、確かひとり息子さんがいらしたはず」


「あ、多分そこだ!ふうん…じゃあ知らないんだ…」


「桃さんは庄屋様の息子さんを知っているのですか?」


「えっ!?うーん…その辺はちょっと話せないんだけど…じゃあここからは私の話でいい?ほんっと長いから途中で寝ないでね」


「ふふっ。はい」


――ふたりきりの時間は思いのほか楽しくて、聞き上手の撫子のおかげで途中何度も話に詰まりながらも、毘沙門天の導きによってこの時代に導かれたことを話した。

ある程度かいつまんで話したのでちぐはぐな部分も存在したのだが、それでも撫子は突っ込みを入れずに聞いてくれたのだが――外はいつの間にかとっぷり陽が暮れていた。


「そうですか…毘沙門天様に導かれて…」


「そうなんです。お話できないことも沢山あるけど、全部本当の話。私があなたと出会ったのもきっと毘沙門天さんが導いてくれたんだと思うの」


「素敵。あなたはやっぱり天女様なんだわ。私も近いうちに毘沙門天様の御許へ参ります。あなたとまたお会いできる日も近いはず」


「どうしてあなたが選ばれたの?」


そこが聞きたい。

謙信と再び出会うきっかけとなったこの真実を。

< 20 / 38 >

この作品をシェア

pagetop