優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
走って来たので汗まみれのまま謙信に会うのが嫌だった桃は、ぽすぽすと襖を叩いてそっと開けると、壁にもたれ掛って腕組みをしつつまどろんでいる謙信を見つけた。

うつらうつらしていて起こすのが可哀そうだったので、風呂に入ってから出直そうとして襖を閉めようとすると――


「お帰り桃。ふああ…よく寝た寝た」


「起こしてごめんね、もうちょっと寝てていいよ、私お風呂に入って来るから」


「じゃあ私も一緒に入ろうかな。うん、そうしよう」


「え!?」


勝手に決められて上機嫌に身体を起こした謙信は、女なら絶対誘いを断りきれない微笑を浮かべて桃の肩を抱く。


「いや?」


「い、いやとかいいとかじゃなくて…ほら今私汗かいてるから触らない方が…」


「ううん、いい匂いがするよ。私と湯に浸かるのは久しぶりじゃない?本当にいやなら諦めるけど」


…と言いつつ脚は湯喉に向かってばく進中。

目を白黒させた桃が謙信の意のままに操られて連れて行かれる様は家臣たちの笑みを誘ったが、そんな2人を見つけた三成は…


「おい、どこへ行く」


「湯殿。桃の背中を流してあげようと思って。なに?私か桃に用が?」


「…用ではないが、どこへ行くのか尋ねただけだ」


「そう?じゃあ行って来るね」


桃は謙信の寵姫であり正室なので、誰も謙信に逆らえるはずがない。

女中たちは羨ましそうな目で桃を見ていたが、桃はそれどころではなく人攫いに遭ったかのように、湯殿へ連れ込まれてしまった。


「背中を流すなんて序の口でしょ?私はかつて万遍なく君の身体を洗ったことが…」


「そ、それはそうだけど!謙信さん、何か大切な話があるんじゃ…」


「まあまあ、それは湯に入ってからでもできるから。さあ、私がそれを脱がせてあげよう」


相変わらずの極上の微笑に根負けしてしまった桃は、あっという間に服を脱がされてしまうと謙信に肢体を晒されて自身を抱きしめるようにして身体を隠した。
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