恋愛歳時記
仕事が終わったと征司さんから連絡が入ったのは6時を少しまわった頃だった。

『晩メシは外で食べよう』
今朝、出がけに言っていたので、準備は万端。

ウチの最寄駅から二駅会社寄りの駅で待ち合わせた。

駅の改札で会ったときには変わりがなかった。
以前、たまたま二人で食べに行ったビストロに行くことを決めたときも何も言わなかった。

まだ若い、少しボーイッシュなマダムに、先日買ったニットが似合ってると褒められたとき、ちょっとびっくりした顔をしていたけど、それだけだ。

美味しいのにリーズナブルなフレンチに舌鼓を打っていた私は、あんまり会話がないのも気にならなかった。
私が何か言えば、ちゃんと答えてくれて、笑いかけてくれて。

だから。

だから、今、駅から征司さんの家までの帰り道。
ムスッとした顔で、私の手を握り、足早に帰ろうとする征司さんの気持ちがよくわからない。

なぜ、こんなに機嫌が悪いのでしょうか?

征司さんも「美味しい」って言ってたよね?
マダムとのやりとりでも怒っているようには見えなかった。

私が何かしたのかしら?

このまま征司さんの家におじゃましてもいいのかな?

思い切って声をかけてみる。

「ねえ、征司さん!」

まっすぐ前を向いたまま、征司さんが「ん?」と答えた。

「ねえ、今日もおじゃましちゃっていいの? 疲れてるんじゃないの?」

征司さんの住むマンションの前まで来ていた。

「いいに決まってる。疲れてないし」

あの~。
やっぱりなんか怖いんですけど。

それでも私は、昨夜と同じように征司さんに引きずられるようにしてドアをくぐった。

私だって、征司さんと一緒にいたいんだよ。

その時の私は、ちゃんと口に出して伝えなければ、征司さんだって私の気持ちを知りようがないことに気が付かなかった。




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