恋愛歳時記
洗濯機の「濯ぎ」の音が聞こえる。
3日ぶりの洗濯は、1回では済まなくて結局、シーツも含めて2回目に突入。
幸い、外は快晴。
風もある。
このままでいけば、2回目が終わるころには1回目の洗濯物もほとんどが乾いているだろう。

出勤する征司さんを見送った私は、その足で自分の部屋に戻ってきた。
合鍵をもらったけれど、何となくまだ落ち着かない。
そんなときは洗濯にかぎる。

一人暮らしとはいえ、洗濯物はすぐに溜まる。
面倒くさいと言えば、それまでだけど。
私は結構、洗濯をするのが好きだ。

洗い立ての洗濯物の匂いが好きなことも理由の一つ。
でも、洗濯して、干して、乾くのを待って、取り込んで、畳んで、タンスにしまってという時間のない人が一番嫌がるであろう、その過程が結構好きなのだ。
タンスの引き出しに収めた瞬間。
なんとなく「やり切った」感を感じるからかもしれない。

そういえば、征司さんは毎日遅かったけど、洗濯はどうしてるんだろう?
ソファの上にあった洗濯物の山を見れば、洗濯はしているらしいけど、畳んだりしまったりは苦手なようだ。
それよりも、イスの背にかかっていたワイシャツの多さが気になる。
まさかクリーニングに全部出す気かなあ。
まあ、下手に自分でアイロンかけるよりいいのかもしれないけど。

あのワイシャツ、私に洗濯させて、アイロンがけさせてくれないかなあ。

そう、私は洗濯をするのと同じような理由で、アイロンがけも好きなのだ。
ピシッとシワのないシャツ、きちんと折り目のついたハンカチ。
ハンガーにかけた瞬間、洗濯に通じるものを感じるのだ。

でも、さすがに「ワイシャツにアイロンをかけさせろ」はダメよね。
いかにも「彼女ヅラ」って気がする。

うーん、それを言うなら。
部屋の掃除も、洗濯物の山も、冷蔵庫の食材補給も。
そして、疲れて帰ってきたときの夕飯作りも。
どれも気になって、できれば色々やってあげたいんだけど。

昨夜の返事を保留にしてもらっている時点で、私にその権利はない。

まさか「征司さんの家の家事をしたいので、彼女にしてください」とは言えないし。
というか、それは言ってはいけないだろう。

私は悶々と取り留めもないことを考えながら、トイレの便器を磨いていた。

トイレの女神様。
ホントにいるなら、お願いですから「べっぴんさん」にならせてくださいな。
征司さんの横に並んでも、自信を持っていられるように。

私だってわかっているのだ。
「自分にしときなよ」って言いたいのは、征司さんだけではないのだと。
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