恋愛歳時記
征司さんの部屋は、もちろん今朝ふたりで家を出たときのまま。
でも、一日中留守にしていた室内はだいぶ肌寒かった。

私をリビングに通すと、征司さんは、
「着替えてくる」
と寝室へ直行。

私は何となく身の置き所がなくて、ぼーっとその場に立ち尽くしていた。

とりあえずコートを脱ごう。

12月の寒空の下、駅から数分とはいえ歩くのはわかっていたので、ダウンコートを着ていた。
ダウンといってもAラインの膝丈で、割と可愛い。
これを着てるとあまり防寒をしなくても耐えられるので、下はニット一枚だ。

やっぱり征司さんを恋愛対象として意識してしまった以上、『ババシャツ』は着たくなかった。
いわゆる『オトメ心』ってヤツだ。

コートを手に持ち、置き場所に困った。
結構、かさばる。

「征司さーん」
寝室に呼びかける。

「なんだ?」
くぐもった声が答えた。

「ねえ、ハンガー貸して。コートかけたい」

「ちょっと待ってろ」

1分も経たないうちに、征司さんがパジャマがわりに着ているTシャツ・スウェット姿で現れた。

髪の毛が一部、逆立ってますよ。
うーん、普段、隙のないイケメンぶりを見ているだけに、このギャップはやられる。

征司さんは私の手からコートを奪って、そのまま寝室に戻った。
なんとなく私も後について寝室へ。

クローゼットの扉は開いていて、スーツやコートが並ぶ一角に少し空間があった。
征司さんがハンガーを通した私のコートをそこにかける。

(あ、もしかして私のためにスペース作ってくれた?)

これって、かなり嬉しいかも。
なんて思ったのもつかの間、征司さんの眉間には縦じわが。

私までブルーになった。

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