恋愛歳時記
征司さんは、普段、自分の感情で相手を振り回すことはしない。
今まで一緒にいたときに、こんな風にあからさまに不機嫌になったこともない。
だから、余計に気になるのだ。

近づく私の困惑した表情が目に入ったのだろう。
征司さんは一瞬、「まずい」という顔をして、ベッドの足元の方に座った。

「ごめん」
先に謝られてしまった。

でも、気になることは聞いておかないと。
「ねえ、征司さん。私、何か気に入らないことした?」

「ちがう。香奈は悪くない」
お、即答だ。

「じゃあ、何が問題? 教えてよ」
隣に腰かけて、顔を覗き込んでやる。
美味しかったフレンチの後味を悪くさせてくれたのだ。
このくらいは許されるだろう。

今回は即答じゃなかった。
しかも沈黙してるし。
俯いてるし。

「香奈、お前。そのニット、会社着て行ったことがあるのか?」

予想外の回答でした。

「えーと、先週買ったばかりで、今日、初めて着たんだけど。似合わなかった?」

先週、見つけたニットは深い緑色で、袖はパフスリーブで手首のところで絞ったデザイン。
スクエアネックで、胸の下で切り替えがあり、部分的なリブ編みが身体に上手くフィットしてくれる。
『デコルテがすっきりしてますし、身体のラインがきれいに見えますよ』
店員からもお墨付きをもらったのだ。
今日もマダムに褒められたし。

正直に不機嫌の理由を言ってほしいけど、似合ってないと言われたらショックだな。

征司さんは私の右手を握った。
「似合ってないわけじゃない。むしろ似合いすぎてる。それが困るんだ」

私の頭にハテナマークが飛んだ。


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