恋愛歳時記
澄んだ夜空を見ながら、タバコのパッケージを開ける。
20歳になった時に吸って以来、人生3本目。
1本目はむせた。
2本目で「うまい」と思った。
ニコチン中毒になりそうで、残りはヘビースモーカーの友人にあげた。

12月の空気は冷たくて、手袋を忘れたことを後悔する。
タバコの煙と自分の吐く息の白さが混じった。

「寒いなあ」
独り言がこぼれたけれど、23時過ぎの公園には誰もいないし、気にしない。

コンビニで仕入れたチューハイの缶を開けて、また手袋の必要性に気付く。

右手にはタバコ、左手にはチューハイ。

どこのオヤジだ、自分。
とツッコミながら、オリオン座を眺める。

生きていると色々あるけれど、昨日、今日と色々ありすぎた。
多分、他人が聞いたら大したことではないかもしれない。
でも、私には今まで頑張ってきたことを否定された気がしたのだ。

思わず漏れた、ため息は我ながら酒臭かった。

1本飲んだところで缶をベンチに置くと、スマートフォンが鳴った。

メール受信。
差出人は成田(なりた)征司(せいじ)。
件名なし。

―今、なにしてる?

とりあえず返信。
―おさんぽ中

今度は着信。

『今、どこ?』
電話でも低い声はよく通る。

「近所の公園」 
『ひとりなのか?』
「そうだけど・・・」
『・・・このバカ!』

電話口で怒鳴られた。
『危ないだろうが!!』

「でも誰もいないよ」
『余計に危ないだろっ!』

普段、多少のことでは声を荒げない人の怒鳴り声が新鮮でちょっと笑ってしまった。

『今から行くから、ちょっと待ってろ』
「今からって、征司さんは今どこ?」
『駅に着いた』

何だか声がブレている。
もしや走ってるのかな?

お酒に弱い私はチューハイを半分も飲めば酔っ払ってしまう。
すでに1杯飲んで、立派な酔っ払いだ。

自覚はあるけど、反省する気はない。

駅から公園まで、歩いて3分。
心配してくれる人を走らせておきながら、笑いがこみ上げる。
夜空に輝く星がにじんで見えた
< 2 / 27 >

この作品をシェア

pagetop