恋愛歳時記
「香奈!」

座っていたベンチの後ろから声。
同時に耳元の電話口からも同じ声。

振り返ると征司さんが通話を切るところだった。

「お前、何考えてんだよ! 女一人でこんなところに・・・」

息を切らしながら、よく話せるなあ。
他人事のように感じた。

「聞いてるのか、香奈?」
「・・・うん」

「香奈? お前、髪の毛どうした?」
征司さんの声に戸惑いが混じる。
会社ではクールな征司さん。
いつでも、どこでも冷静沈着。
こんな征司さんは珍しい。

「ふふ、切っちゃった」
今の私は肩下10センチのロングからショートヘア。

「切っちゃったって、会社では長かっただろ」
「会社の帰りに美容院に行った」

征司さんはベンチに放っておいた空き缶を近くのゴミ箱に捨てると、隣に腰かけた。

「何かあったのか?」

さっきの怒鳴り声とは違ったやさしい声にさらに景色がにじむ。

「話してみろよ」

「きっと呆れるよ・・・」

「もう、すでに呆れてるから気にするなよ・・・」

まったく危機管理がなってない、だの、夜に公園で一人なんてありえない、だの
ブツクサ言う声が聞こえた。

私は涙をこらえきれず、顔が歪んだ。

顔もぐちゃぐちゃ、心もぐちゃぐちゃ。
そして征司さんい搔き混ぜられた髪の毛もぐちゃぐちゃ。

征司さんの手は、冬の冷気にあてられた私の頭にはとっても暖かく感じられた。
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