不器用上司のアメとムチ
「――離れてください!!」
「やーだぁ」
「みんな見てますから!」
「小梅ちゃんのイジワル〜」
あはは、とひきつった笑みを浮かべながら、あたしは周囲の人たちに頭を下げる。
久我さんの酔い方は何パターンかあるらしく、今日は幼児化してしまった。
あたしの太ももにしがみついて顔を擦り付けながら、ふにゃふにゃ訳のわからないことばかり言っている。
そうこうしているうちに船は目的地に着き、他のお客さんがみんな降りたあとで、フラフラな彼に肩を貸しながらあたしたちも船を降りた。
「ここ、どこ……?」
目の前は、草だらけの見知らぬ河原。
船はゆっくりだったから、距離はそんなに来ていないはずだけど……
「――――どうした、小梅」
不意に耳元でそんな風にささやかれ、あたしの胸がドキンと跳ねた。
元の久我さんに戻った……?
でも、それなら小梅じゃなくて梅って呼ぶはず……